ミャンマーの国籍法と国際結婚について
先日ふと、「ミャンマー人と国際結婚したら、子どもの国籍ってどうなるのかな?」と言う疑問が浮かび、知り合いのミャンマー人(ビルマ民族の方)に確認したところ、「ミャンマーで出産したらミャンマー人じゃないの?」と言われました。しかしミャンマーの国籍法などを調べてみると、なんだか複雑な事情がミャンマーにはあることが分かりました。
少し前に話題になったロヒンギャ問題も、現状の国籍法によりややこしくなってしまっている部分があるそうです。そこで今回は、ミャンマーの国籍法について少し紹介していきたいと思います。
ミャンマー国籍法とは
まず、2020年現在、ミャンマー国籍法は1982年に制定された国籍法のことを指します。ICJ(国際法律家委員会)というNGOの『Citizenship and Human Rights in Myanmar: Why Law Reform is Urgent and Possible』を見ると、1982年国籍法は英語では『1982 Citizenship Law』と表記されています。また、UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)では、1982年国籍法は『Burma Citizenship Law』と表記されています。
1982年国籍法では、ミャンマーの国民はCitizen(国民)、Associate Citizen(準国民)、 Naturalized Citizen(帰化国民)の3つに分類されます。Citizen(国民)とは、1982年国籍法Section3に規定されるように、1823年以前からミャンマーに住んでいる、カチン族、カヤー族、カレン族、チン族、ビルマ族、モン族、ラカイン族、シャン族などの135の民族集団のことを言います。また、1823年以降に新たに生まれてきた人々についても、1982年国籍法Section7の条件に合致する場合にはCitizen(国民)の資格が付与されるとされます。
[引用]AFP「【図解】ミャンマーの民族分布」
Associate Citizen(準国民)とは、1982年国籍法のChapter3にて規定されており、1948年に施行された国籍法に基づいて国籍を申請し取得した人のことを言います。また、Naturalized Citizen(帰化国民)とは、1982年以降に市民権の取得を申請した人々になります。*『REPORT ON CITIZENSHIP LAW:MYANMAR』より
ミャンマー国籍法による3つの分類により、Citizen(国民)と、Associate Citizen(準国民)、 Naturalized Citizen(帰化国民)の間で不平等が生じることがあるようです。もちろん、少し前に話題になったロヒンギャ問題の根底には国籍法に関わる部分がありますが、教育や行政サービスでの格差などロヒンギャ民族だけの問題でもないようです。
ミャンマー人と日本人が結婚したら国籍はどうなる?
ここで冒頭の話に戻りますが、ミャンマー人が日本人と結婚し、出産した場合子どもの国籍はどうなるのか1982年国籍法に照らして考えてみたいと思います。
ミャンマーについて入る前に、まず前提として、生まれたときに子どもにどのように国籍が与えられるか世界各国の考え方について少し触れていきたいと思います。子どもが生まれた場合、国籍の与えられる基準としては大きく「血統主義」と「出生地主義」の2つの考え方があります。「血統主義」とは、両親の国籍が生まれてきた子どもにも与えられるという考え方で、両親どちらかの国籍を選択できる「父母両系血統主義」と、父親の国籍が優先的に付与される「父系優先血統主義」があります。現在日本は「父母両系血統主義」を採用しています。
次に「出生地主義」とは、親の国籍は関係なく、「出生地主義」を採用している国で生まれた子どもは、その国の国籍が付与されるという考え方です。アメリカなどが「出生地主義」を採用しており、日本人夫婦がアメリカで出産した場合、「出生地主義」の考え方に基づいて、アメリカ国籍が取得可能になります。
以上のように、子どもの国籍付与の考え方は2つに大別されますが、ミャンマーの場合はどうなるのでしょうか。在ミャンマー日本国大使館の案内によると、
また、1982年国籍法において、生まれた子どもの国籍付与に関するChapter2内には、外国人とミャンマー人の間に生まれた子どもがミャンマー国籍となる文言はありません。また、1982年国籍法において、重国籍は認められていません。つまり、ミャンマーは「血統主義」を採用していますが、両親ともにミャンマー人でないとミャンマー国籍が付与されないという日本とは異なる「血統主義」を採用しており、日本人とミャンマー人との間に生まれた子どもは、ミャンマー国籍にしたくともできないのが現状になります。
最後に
いかがでしたでしょうか。僕がミャンマー人と結婚して子どもを設けた場合、日本国籍かミャンマー国籍どちらを選ぶかは子どもに任せようと当初は思っていたので、今回の規程を見つけて少し残念だなと思ってしまいました。ただ、ロヒンギャ問題のことなどもあるため、近い将来改正されるのではと思います。
[参考]
・International Commission of Jurists『Citizenship and Human Rights in Myanmar: Why Law Reform is Urgent and Possible』(参照2020-9-8)
・UNHCR『Burma Citizenship Law』(参照2020-9-8)
・José María Arraiza and Olivier Vonk『REPORT ON CITIZENSHIP LAW:MYANMAR』(参照2020-9-8)